と仰山《ぎょうさん》に二人が怯《おび》えた。女弟子の驚いたのなぞは構はないが、読者を怯《おびやか》しては不可《いけな》い。滝壺《たきつぼ》へ投沈《なげしず》めた同じ白金《プラチナ》の釵が、其の日のうちに再び紫玉の黒髪に戻つた仔細を言はう。
 池で、船の中へ鯉が飛込《とびこ》むと、弟子たちが手を拍《う》つ、立騒《たちさわ》ぐ声が響いて、最初は女中が小船《こぶね》で来た。……島へ渡した細綱《ほそづな》を手繰《たぐ》つて、立ちながら操《あやつ》るのだが、馴《な》れたもので、あとを二押《ふたおし》三押《みおし》、屋形船《やかたぶね》へ来ると、由《よし》を聞き、魚《うお》を視て、「まあ、」と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つた切《きり》、慌《あわただ》しく引返《ひきかへ》した。が、間《ま》もあらせず、今度は印半纏《しるしばんてん》を被《き》た若いものに船を操《と》らせて、亭主らしい年配《としごろ》な法体《ほったい》したのが漕《こ》ぎつけて、「これは/\太夫様《たゆうさま》。」亭主も逸時《いちはや》く其を知つて居て、恭《うやうや》しく挨拶《あいさつ》をした。浴衣《ゆかた》の
前へ 次へ
全63ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング