く、波はざツと鳴つた。
女優の船頭は棹《さお》を落した。
あれ/\、其の波頭《なみがしら》が忽《たちま》ち船底《ふなぞこ》を噛《か》むかとすれば、傾く船に三人が声を殺した。途端に二三|尺《じゃく》あとへ引いて、薄波《うすなみ》を一煽《ひとあお》り、其の形に煽るや否《いな》や、人の立つ如く、空へ大《おおい》なる魚《うお》が飛んだ。
瞬間、島の青柳《あおやぎ》に銀の影が、パツと映《さ》して、魚《うお》は紫立《むらさきだ》つたる鱗《うろこ》を、冴《さ》えた金色《こんじき》に輝かしつゝ颯《さっ》と刎《は》ねたのが、飜然《ひらり》と宙を躍《おど》つて、船の中へ堂《どう》と落ちた。其時《そのとき》、水がドブンと鳴つた。
舳《みよし》と艫《とも》へ、二人はアツと飛退《とびの》いた。紫玉は欄干《らんかん》に縋《すが》つて身を転《か》はす。
落ちつゝ胴《どう》の間《ま》で、一刎《ひとはね》、刎《は》ねると、其のはずみに、船も動いた。――見事な魚《うお》である。
「お嬢様!」
「鯉《こい》、鯉、あら、鯉だ。」
と玉江が夢中で手を敲《たた》いた。
此の大《おおい》なる鯉が、尾鰭《おひれ》を曳《
前へ
次へ
全63ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング