すん》二寸づゝ動きはじめた。
凝《じっ》と、……視《み》るに連れて、次第に、緩《ゆる》く、柔かに、落着いて弧《こ》を描きつゝ、其の円《まる》い線の合《がっ》する処《ところ》で、又スースーと、一寸二寸づゝ動出《うごきだ》すのが、何となく池を広く大きく押拡《おしひろ》げて、船は遠く、御幣《ごへい》は遙《はるか》に、不思議に、段々|汀《みぎわ》を隔《へだた》るのが心細いやうで、気も浮《うっ》かりと、紫玉は、便《たより》少ない心持《ここち》がした。
「大丈夫かい、彼処《あすこ》は渦を巻いて居るやうだがね。」
欄干《らんかん》に頬杖《ほおづえ》したまゝ、紫玉は御幣を凝視《みつ》めながら言つた。
「詰《つま》りませんわ、少し渦でも巻かなけりや、余《あんま》り静《しずか》で、橋の上を這《は》つてゐるやうですもの、」
とお転婆《てんば》の玉江が洒落《しゃれ》でもないらしく、
「玉野さん、船を彼方《あっち》へ遣《や》つて見ないか?……」
紫玉が圧《おさ》へて、
「不可《いけな》いよ。」
「否《いいえ》、何ともありやしませんわ。それだし、もしか、船に故障があつたら、おーいと呼ぶか、手を敲《たた》け
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