場に成る。赫《かっ》と射《い》る日に、手廂《てびさし》して恁《こ》う視《なが》むれば、松、桜、梅いろ/\樹の状《さま》、枝の振《ふり》の、各自《おのおの》名ある神仙《しんせん》の形を映すのみ。幸ひに可忌《いまわし》い坊主の影は、公園の一|木《ぼく》一|草《そう》をも妨《さまた》げず。又……人の往来《ゆきか》ふさへ殆《ほとん》どない。
 一処《ひとところ》、大池《おおいけ》があつて、朱塗《しゅぬり》の船の、漣《さざなみ》に、浮いた汀《みぎわ》に、盛装した妙齢《としごろ》の派手《はで》な女が、番《つがい》の鴛鴦《おしどり》の宿るやうに目に留《とま》つた。
 真白な顔が、揃《そろ》つて此方《こっち》を向いたと思ふと。
「あら、お嬢様。」
「お師匠《ししょう》さーん。」
 一人が最《も》う、空気草履《くうきぞうり》の、媚《なまめ》かしい褄捌《つまさば》きで駆けて来る、目鼻は玉江《たまえ》。……最《も》う一人は玉野《たまの》であつた。
 紫玉は故郷へ帰つた気がした。
「不思議な処《ところ》で、と言ひたいわね。見《けん》ぶつかい。」
「えゝ、観光団。」
「何を悪戯《いたずら》をして居るの、お前さん
前へ 次へ
全63ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング