あと》へ続くには堪へられぬ。
其処《そこ》で滝の道を訊いて――此処《ここ》へ来た。――
泉殿《せんでん》に擬《なぞら》へた、飛々《とびとび》の亭《ちん》の孰《いず》れかに、邯鄲《かんたん》の石の手水鉢《ちょうずばち》、名品、と教へられたが、水の音より蝉《せみ》の声。で、勝手に通抜《とおりぬ》けの出来る茶屋は、昼寝の半《なか》ばらしい。何《ど》の座敷も寂寞《ひっそり》して人気勢《ひとけはい》もなかつた。
御歯黒蜻蛉《おはぐろとんぼ》が、鉄漿《かね》つけた女房《にょうぼ》の、微《かすか》な夢の影らしく、ひら/\と一つ、葉ばかりの燕子花《かきつばた》を伝つて飛ぶのが、此のあたり御殿女中の逍遙《しょうよう》した昔の幻を、寂《さび》しく描いて、都を出た日、遠く来た旅を思はせる。
すべて旧藩侯《きゅうはんこう》の庭園だ、と言ふにつけても、贈主《おくりぬし》なる貴公子の面影《おもかげ》さへ浮ぶ、伯爵の鸚鵡《おうむ》を何《なん》とせう。
霊廟《れいびょう》の土の瘧《おこり》を落し、秘符《ひふ》の威徳の鬼を追ふやう、立処《たちどころ》に坊主の虫歯を癒《いや》したは然《さ》ることながら、路々《み
前へ
次へ
全63ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング