《かた》に蒼《つ》と面《おもて》を背《そむ》けた。
六
紫玉は待兼《まちか》ねたやうに懐紙《かいし》を重ねて、伯爵、を清めながら、森の径《こみち》へ行《ゆ》きましたか、坊主は、と訊《き》いた。父も娘も、へい、と言つて、大方|然《そ》うだらうと言ふ。――最《も》う影もなかつたのである。父娘《おやこ》は唯《ただ》、紫玉の挙動《ふるまい》にのみ気を奪《と》られて居たらう。……此の辺を歩行《ある》く門附《かどづけ》見たいなもの、と又訊けば、父親がつひぞ見掛けた事はない。娘が跣足《はだし》で居ました、と言つたので、旅から紛込《まぎれこ》んだものか、其も分らぬ。
と、言ふうちにも、紫玉は一寸々々《ちょいちょい》眉《まゆ》を顰《ひそ》めた。抜いて持つた釵《かんざし》、鬢摺《びんず》れに髪に返さうとすると、呀《や》、する毎《ごと》に、手の撓《しな》ふにさへ、得《え》も言はれない、異《い》な、変な、悪臭《わるぐさ》い、堪《たま》らない、臭気《におい》がしたのであるから。
城は公園を出る方で、其処《そこ》にも影がないとすると、吹矢《ふきや》の道を上《のぼ》つたに相違ない。で、後《
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