い》れた。
 喘《あえ》ぐわ、舐《しゃぶ》るわ! 鼻息《はないき》がむツと掛《かか》る。堪《たま》らず袖を巻いて唇を蔽《おお》ひながら、勢《いきお》ひ釵とともに、やゝ白《しろ》やかな手の伸びるのが、雪白《せっぱく》なる鵞鳥《がちょう》の七宝《しっぽう》の瓔珞《ようらく》を掛けた風情《ふぜい》なのを、無性髯《ぶしょうひげ》で、チユツパと啜込《すすりこ》むやうに、坊主は犬蹲《いぬつくばい》に成つて、頤《あご》でうけて、どろりと嘗《な》め込む。
 唯《と》、紫玉の手には、づぶ/\と響いて、腐れた瓜《うり》を突刺《つきさ》す気味合《きみあい》。
 指環は緑紅《りょくこう》の結晶したる玉の如き虹《にじ》である。眩《まぶ》しかつたらう。坊主は開《ひら》いた目も閉ぢて、※[#「りっしんべん+夢」の「夕」に代えて「目」、第4水準2−12−81]《ぼう》とした顔色《がんしょく》で、しつきりもなしに、だら/\と涎《よだれ》を垂らす。「あゝ、手がだるい、まだ?」「いま一息。」――
 不思議な光景《ようす》は、美しき女が、針の尖《さき》で怪しき魔を操《あやつ》る、舞台に於ける、神秘なる場面にも見えた。茶店《ち
前へ 次へ
全63ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング