》しながら、袖《そで》を柔かに、手首をやゝ硬くして、彼処《あすこ》で抜いた白金《プラチナ》の鸚鵡《おうむ》の釵《かんざし》、其の翼を一寸《ちょっと》抓《つま》んで、晃乎《きらり》とぶら下げて居るのであるが。
仔細は希有《けう》な、……
坊主が土下座《どげざ》して「お慈悲、お慈悲。」で、お願《ねがい》と言ふのが金《かね》でも米でもない。施与《ほどこし》には違ひなけれど、変な事には「お禁厭《まじない》をして遣《つか》はされい。虫歯が疚《うず》いて堪へ難《がた》いでな。」と、成程《なるほど》左の頬《ほお》がぷくりとうだばれたのを、堪難《たえがた》い状《さま》に掌《てのひら》で抱《かか》へて、首を引傾《ひっかたむ》けた同じ方の一眼《いちがん》が白くどろんとして潰《つぶ》れて居る。其の目からも、ぶよ/\とした唇からも、汚《きたな》い液《しる》が垂れさうな塩梅《あんばい》。「お慈悲ぢや。」と更に拝んで、「手足に五|寸《すん》釘を打たれうとても、恁《かく》までの苦悩《くるしみ》はございますまいぞ、お情《なさけ》ぢや、禁厭《まじの》うて遣《つか》はされ。」で、禁厭《まじない》とは別儀《べつぎ》でな
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