間《どま》に、両膝《りょうひざ》を折つて居た。
「…………」
「お願《ねがい》でござります。……お慈悲《じひ》ぢや、お慈悲、お慈悲。」
 仮初《かりそめ》に置いた涼傘《ひがさ》が、襤褸法衣《ぼろごろも》の袖《そで》に触れさうなので、密《そっ》と手元へ引いて、
「何ですか。」と、坊主は視ないで、茶屋の父娘《おやこ》に目を遣《や》つた。
 立つて声を掛けて追はうともせず、父も娘も静《しずか》に視て居る。

        五

 少時《しばらく》すると、此の旱《ひでり》に水は涸《か》れたが、碧緑《へきりょく》の葉の深く繁れる中なる、緋葉《もみじ》の滝と云ふのに対して、紫玉は蓮池《はすいけ》の汀《みぎわ》を歩行《ある》いて居た。こゝに別に滝の四阿《あずまや》と称《とな》ふるのがあつて、八《や》ツ橋《はし》を掛け、飛石《とびいし》を置いて、枝折戸《しおりど》を鎖《とざ》さぬのである。
 で、滝のある位置は、柳の茶屋からだと、もとの道へ小戻《こもど》りする事に成る。紫玉はあの、吹矢《ふきや》の径《みち》から公園へ入らないで、引返《ひきかえ》したので、……涼傘《ひがさ》を投遣《なげや》りに翳《かざ
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