、引掻《ひっか》くやうにもぞ/\と肩を揺《ゆす》ると、一眼《いちがん》ひたと盲《し》ひた、眇《めっかち》の青ぶくれの面《かお》を向けて、恁《こ》う、引傾《ひっかたが》つて、熟《じっ》と紫玉の其の状《さま》を視《み》ると、肩を抽《ぬ》いた杖《つえ》の尖《さき》が、一度胸へ引込《ひっこ》んで、前屈《まえかが》みに、よたりと立つた。
 杖を径《こみち》に突立《つきた》て/\、辿々《たどたど》しく下闇《したやみ》を蠢《うごめ》いて下《お》りて、城の方《かた》へ去るかと思へば、のろく後退《あとじさり》をしながら、茶店《ちゃみせ》に向つて、吻《ほっ》と、立直《たちなお》つて一息《ひといき》吐《つ》く。
 紫玉の眉《まゆ》の顰《ひそ》む時、五|間《けん》ばかり軒《のき》を離れた、其処《そこ》で早《は》や、此方《こなた》へぐつたりと叩頭《おじぎ》をする。
 知らない振《ふり》して、目をそらして、紫玉が釵《かんざし》に俯向《うつむ》いた。が、濃い睫毛《まつげ》の重く成るまで、坊主の影は近《ちかづ》いたのである。
「太夫様《たゆうさま》。」
 ハツと顔を上げると、坊主は既に敷居を越えて、目前《めさき》の土
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