に、藪畳《やぶだたみ》は打倒《ぶったお》れ、飾《かざり》の石地蔵は仰向《あおむ》けに反《そ》つて、視た処《ところ》、ものあはれなまで寂《さび》れて居た。
――其の軒《のき》の土間《どま》に、背後《うしろ》むきに蹲《しゃが》んだ僧形《そうぎょう》のものがある。坊主《ぼうず》であらう。墨染《すみぞめ》の麻《あさ》の法衣《ころも》の破《や》れ/\な形《なり》で、鬱金《うこん》も最《も》う鼠《ねずみ》に汚《よご》れた布に――すぐ、分つたが、――三味線《しゃみせん》を一|挺《ちょう》、盲目《めくら》の琵琶背負《びわじょい》に背負《しょ》つて居る、漂泊《さすら》ふ門附《かどづけ》の類《たぐい》であらう。
何をか働く。人目を避けて、蹲《うずくま》つて、虱《しらみ》を捻《ひね》るか、瘡《かさ》を掻《か》くか、弁当を使ふとも、掃溜《はきだめ》を探した干魚《ほしうお》の骨を舐《しゃぶ》るに過ぎまい。乞食《こじき》のやうに薄汚《うすぎたな》い。
紫玉は敗竄《はいざん》した芸人と、荒涼たる見世ものに対して、深い歎息《ためいき》を漏《も》らした。且《か》つあはれみ、且つ可忌《いまわ》しがつたのである。
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