》がある。滝かと思ふ蝉時雨《せみしぐれ》。光る雨、輝く木《こ》の葉《は》、此の炎天の下蔭《したかげ》は、恰《あたか》も稲妻《いなずま》に籠《こも》る穴に似て、もの凄《すご》いまで寂寞《ひっそり》した。
 木下闇《こしたやみ》、其の横径《よこみち》の中途《なかほど》に、空屋《あきや》かと思ふ、廂《ひさし》の朽《く》ちた、誰《たれ》も居ない店がある……

        四

 鎖《とざ》してはないものの、奥に人が居て住むかさへ疑はしい。其とも日が暮れると、白い首でも出て些《ち》とは客が寄らうも知れぬ。店|一杯《いっぱい》に雛壇《ひなだん》のやうな台を置いて、最《いと》ど薄暗いのに、三方《さんぽう》を黒布《くろぬの》で張廻《はりまわ》した、壇の附元《つけもと》に、流星《ながれぼし》の髑髏《しゃれこうべ》、乾《ひから》びた蛾《ひとりむし》に似たものを、点々並べたのは的《まと》である。地方の盛場《さかりば》には時々|見掛《みか》ける、吹矢《ふきや》の機関《からくり》とは一目《ひとめ》視《み》て紫玉にも分つた。
 実《まこと》は――吹矢《ふきや》も、化《ばけ》ものと名のついたので、幽霊の廂合《ひ
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