を見れば、ぐしょ濡《ぬれ》の土間に、ちらちらとまた紅《くれない》の褄が流れる。
緋鯉《ひごい》が躍ったようである。
思わず視線の向うのと、肩を合せて、その時、腰掛を立上った、もう一人の女がある。ちょうど緋縮緬のと並んでいた、そのつれかとも思われる、大島の羽織を着た、丸髷《まるまげ》の、脊の高い、面長な、目鼻立のきっぱりした顔を見ると、宗吉は、あっと思った。
再び、おや、と思った。
と言うのは、このごろ忙しさに、不沙汰《ぶさた》はしているが、知己《ちかづき》も知己、しかもその婚礼の席に列《つらな》った、従弟《いとこ》の細君にそっくりで。世馴《よな》れた人間だと、すぐに、「おお。」と声を掛けるほど、よく似ている。がその似ているのを驚いたのでもなければ、思い掛けず出会ったのを驚いたのでもない。まさしくその人と思うのが、近々《ちかぢか》と顔を会わせながら、すっと外らして窓から雨の空を視《み》た、取っても附けない、赤の他人らしい処置|振《ぶり》に、一驚を吃《きっ》したのである。
いや、全く他人に違いない。
けれども、脊恰好《せいかっこう》から、形容《なりかたち》、生際《はえぎわ》の少
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