った柱で小突いて、超然とした。
「へッ! 上りは停電。」
「下りは故障だ。」
響《ひびき》の応ずるがごとく、四五人口々に饒舌《しゃべ》った。
「ああ、ああ、」
「堪《たま》らねえなあ。」
「よく出来てら。」
「困ったわねえ。」と、つい釣込まれたかして、連《つれ》もない女学生が猪首《いくび》を縮めて呟《つぶや》いた。
が、いずれも、今はじめて知ったのでは無さそうで、赤帽がしかく機械的に言うのでも分る。
かかる群集の動揺《どよ》む下に、冷然たる線路は、日脚に薄暗く沈んで、いまに鯊《はぜ》が釣れるから待て、と大都市の泥海に、入江のごとく彎曲《わんきょく》しつつ、伸々《のびのび》と静まり返って、その癖|底光《そこびかり》のする歯の土手を見せて、冷笑《あざわら》う。
赤帽の言葉を善意に解するにつけても、いやしくも中|山高帽《やまたか》を冠《かぶ》って、外套も服も身に添った、洋行がえりの大学教授が、端近《はしぢか》へ押出して、その際じたばたすべきではあるまい。
宗吉は――煙草《たばこ》は喫《の》まないが――その火鉢の傍《そば》へ引籠《ひきこも》ろうとして、靴を返しながら、爪尖《つまさき》
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