折ったのである。……懐紙の、白い折鶴が掌《て》にあった。
「この飛ぶ処へ、すぐおいで。」
ほっと吹く息、薄紅《うすくれない》に、折鶴はかえって蒼白《あおじろ》く、花片《はなびら》にふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちた大《おおき》な門で、はたして宗吉は拾われたのであった。
電車が上り下りともほとんど同時に来た。
宗吉は身動きもしなかった。
と見ると、丸髷《まるまげ》の女が、その緋縮緬《ひぢりめん》の傍《そば》へ衝《つ》と寄って、いつか、肩ぬげつつ裏の辷《すべ》った効性《かいしょう》のない羽織を、上から引合せてやりながら、
「さあ、来ました。」
「自動車ですか。」
と目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ったまま、緋縮緬の女はきょろんとしていた。
十
年若《としわか》い駅員が、
「貴方がたは?」
と言った。
乗り余った黒山の群集も、三四輛立続けに来た電車が、泥まで綺麗に浚《さら》ったのに、まだ待合所を出なかった女二人、(別に一人)と宗吉をいぶかったのである。
宗吉は言った。
「この御婦人が御病気なんです。」
と、や
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