な身裁《しだら》になったけれど、……そんな相談をされてからはね……その上に、この眉毛《まみえ》を見てからは……」
と、お千は密《そっ》と宗吉の肩を撫でた。
「つくづく、あんな人が可厭《いや》になった。――そら、どかどかと踏込むでしょう。貴方を抱いて、ちゃんと起きて、居直って、あいそづかしをきっぱり言って、夜中に直ぐに飛出して、溜飲《りゅういん》を下げてやろうと思ったけれど……どんな発機《はずみ》で、自棄腹《やけばら》の、あの人たちの乱暴に、貴方に怪我でもさせた日にゃ、取返しがつかないから、といま胸に手を置いて、分別をしたんですよ。
さ、このままどこかへ行《ゆ》きましょう。私に任して安心なさいよ。……貴方もきっとあの人たちに二度とつき合っては不可《いけ》ません。」
裏崕《うらがけ》の石段を降りる時、宗吉は狼の峠を越して、花やかな都を見る気がした。
「ここ……そう……」
お千さんが莞爾《にっこり》して、塩煎餅を買うのに、昼夜帯を抽《ぬ》いたのが、安ものらしい、が、萌黄《もえぎ》の金入《かねいれ》。
「食べながら歩行《あるき》ましょう。」
「弱虫だね。」
大通《おおどおり》へ抜け
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