て忍び笑《わらい》をしたのである。
立続《たてつ》けて、
「くッくッくッ。」
七
「こっちは、びきを泣かせてやれか。」
と黄八丈が骨牌《ふだ》を捲《めく》ると、黒縮緬の坊さんが、紅《あか》い裏を翻然《ひらり》と翻《かえ》して、
「餓鬼め。」
と投げた。
「うふ、うふ、うふ。」と平四郎の忍び笑が、歯茎を洩《も》れて声に出る。
「うふふ、うふふ、うふふふふふ。」
「何じゃい。」と片手に猪口《ちょく》を取りながら、黒天鵝絨《くろびろうど》の蒲団《ふとん》の上に、萩、菖蒲《あやめ》、桜、牡丹《ぼたん》の合戦を、どろんとした目で見据えていた、大島揃《おおしまぞろい》、大胡坐《おおあぐら》の熊沢が、ぎょろりと平四郎を見向いて言うと、笑いの虫は蕃椒《とうがらし》を食ったように、赤くなるまで赫《かっ》と競勢《きお》って、
「うはははは、うふふ、うふふ。うふふ。えッ、いや、あ、あ、チ、あははははは、はッはッはッはッ、テ、ウ、えッ、えッ、えッ、えへへ、うふふ、あはあはあは、あは、あはははははは、あはははは。」
「馬鹿な。」
と唇を横舐《よこな》めずって、熊沢がぬっと突出した猪口に
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