》戻って、段々にちょっと区劃《くぎり》のある、すぐに手を立てたように石坂がまた急になる、平面な処で、銀杏《いちょう》の葉はまだ浅し、樅《もみ》、榎《えのき》の梢《こずえ》は遠し、楯《たて》に取るべき蔭もなしに、崕《がけ》の溝端《どぶばた》に真俯向《まうつむ》けになって、生れてはじめて、許されない禁断の果《このみ》を、相馬の名に負う、轡をガリリと頬張る思いで、馬の口にかぶりついた。が、甘《うま》さと切なさと恥かしさに、堅くなった胸は、自《おのず》から溝《どぶ》の上へのめって、折れて、煎餅は口よりもかえって胃の中でボリボリと破《わ》れた。
ト突出《つきだし》た廂《ひさし》に額を打たれ、忍返《しのびがえし》の釘に眼を刺され、赫《かっ》と血とともに総身《そうしん》が熱く、たちまち、罪ある蛇になって、攀上《よじのぼ》る石段は、お七が火の見を駆上った思いがして、頭《こうべ》に映《さ》す太陽は、血の色して段に流れた。
宗吉はかくてまた明神の御手洗《みたらし》に、更に、氷に閑《とじ》らるる思いして、悚然《ぞっ》と寒気を感じたのである。
「くすくす、くすくす。」
花骨牌《はちはち》の車座の、輪に身
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