、ぐっと。そら、どうです、つるつるのつるつると、鮮かなもんでげしょう。」
「何だか危《あぶな》ッかしいわね。」
と少し膝を浮かしながら、手元を覗いて憂慮《きづかわ》しそうに、動かす顔が、鉄瓶の湯気の陽炎《かげろう》に薄絹を掛けつつ、宗吉の目に、ちらちら、ちらちら。
「大丈夫、それこの通り、ちょいちょいの、ちょいちょいと、」
「あれ、止《よ》して頂戴、止してよ。」
と浮かした膝を揺ら揺らと、袖が薫って伸上る。
「なぜですてば。」
「危いわ、危いわ。おとなしい、その優しい眉毛《まみえ》を、落したらどうしましょう。」
「その事ですかい。」
と、ちょっと留めた剃刀をまた当てた。
「構やしません。」
「あれ、目の縁はまだしもよ、上は止して、後生だから。」
「貴女の襟脚を剃《す》ろうてんだ。何、こんなものぐらい。」
「ああ、ああああ、ああーッ。」
と便所の裡《なか》で屋根へ投げた、筒抜けな大欠伸《おおあくび》。
「笑っちゃあ……不可《いけな》い不可い。」
「ははははは、笑ったって泣いたって、何、こんな小僧ッ子の眉毛《まゆげ》なんか。」
「厭《いや》、厭、厭。」
と支膝《つきひざ》のまま、
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