た》らして頂きやしょう。いえ、自慢じゃありませんがね、昨夜《ゆうべ》ッから申す通り、野郎|図体《ずうたい》は不器用でも、勝奴《かつやっこ》ぐらいにゃ確《たしか》に使えます。剃刀《かみそり》を持たしちゃ確《たしか》です。――秦君、ちょっと奥へ行って、剃刀を借りて来たまえ。」
 宗吉は、お千さんの、湯にだけは密《そっ》と行っても、床屋へは行《ゆ》けもせず、呼ぶのも慎むべき境遇を頷《うなず》きながら、お妾に剃刀を借りて戻る。……
「おっと!……ついでに金盥《かなだらい》……気を利かして、気を利かして。」
 この間に、いま何か話があったと見える。
「さあ、君、ここへ顔を出したり、一つ手際を御覧に入れないじゃ、奥さん御信用下さらない。」
「いいえ、そうじゃありませんけれどもね、私まだ、そんなでもないんですから。」
「何、御遠慮にゃあ及びません。間違った処でたかが小僧の顔でさ。……ちょうど、ほら、むく毛が生えて、※[#「滔」の「さんずい」に代えて「しょくへん」、第4水準2−92−68]子《あんこ》の撮食《つまみぐい》をしたようだ。」
 宗吉は、可憐《あわれ》やゴクリと唾《つ》を呑んだ。
「仰向いて
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