いる。……小皿の平四郎。
いずれも、花骨牌《はちはち》で徹夜の今、明神坂の常盤湯《ときわゆ》へ行ったのである。
行違いに、ぼんやりと、宗吉が妾宅へ入ると、食う物どころか、いきなり跡始末の掃除をさせられた。
「済まないことね、学生さんに働かしちゃあ。」
とお千さんは、伊達巻一つの艶《えん》な蹴出《けだ》しで、お召の重衣《かさね》の裙《すそ》をぞろりと引いて、黒天鵝絨《くろびろうど》の座蒲団《ざぶとん》を持って、火鉢の前を遁《に》げながらそう言った。
「何、目下は私《あっし》たちの小僧です。」
と、甘谷《あまや》という横肥《よこぶと》り、でぶでぶと脊の低い、ばらりと髪を長くした、太鼓腹に角帯を巻いて、前掛《まえかけ》の真田《さなだ》をちょきんと結んだ、これも医学の落第生。追って大実業家たらんとする準備中のが、笑いながら言ったのである。
二人が、この妾宅の貸ぬしのお妾《めかけ》――が、もういい加減な中婆さん――と兼帯に使う、次の室《ま》へ立った間《ま》に、宗吉が、ひょろひょろして、時々浅ましく下腹をぐっと泣かせながら、とにかく、きれいに掃出すと、
「御苦労々々。」
と、調子づいて
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