《す》てた、カラアも外《はず》したが、炉のふちに尚《なお》油断なく、
「あゝ、腹が空《す》いた。最《も》う/\降るのと溜《たま》つたので濡れ徹《とお》つて、帽子から雫《しずく》が垂れた時は、色も慾も無くなつて、筵《むしろ》が一枚ありや極楽、其処《そこ》で寝たいと思つたけれど、恁《こ》うしてお世話になつて雨露《あめつゆ》が凌《しの》げると、今度は虫が合点《がってん》しない、何《なん》ぞ食べるものはありませんか。」
「然《さ》ればなう、恐《おそろ》し気《げ》な音をさせて、汽車とやらが向うの草の中を走つた時分《ころ》には、客も少々はござつたで、瓜《うり》なと剥《む》いて進ぜたけれど、見さつしやる通りぢやでなう。私《わし》が食《たべ》る分ばかり、其も黍《きび》を焚《た》いたのぢやほどに、迚《とて》もお口には合ふまいぞ。」
「否《いいえ》、飯《めし》は持つてます、何《ど》うせ、人里《ひとざと》のないを承知だつたから、竹包《たけづつみ》にして兵糧《ひょうろう》は持参ですが、お菜《さい》にするものがないんです、何か些《ちっ》と分けて貰《もら》ひたいと思ふんだがね。」
 媼《おうな》は胸を折つてゆるや
前へ 次へ
全55ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング