《かが》め、胸を張り、手でこするが如くにし、外《と》の方《かた》を覗《のぞ》いたが、
「むかうへむく/\と霧が出て、そつとして居る時は天気ぢやがの、此方《こちら》の方から雲が出て、そろ/\両方から歩行《あよ》びよつて、一所《ひとつ》になる時が此の雨ぢや。びしよ/\降ると寒うござるで、老寄《としより》には何より恐しうござるわいの。」
「あゝ、私も雨には弱りました、じと/\其処等中《そこらじゅう》へ染込《しみこ》んで、この気味の悪さと云つたらない、お媼《ばあ》さん。」
「はい、御難儀《ごなんぎ》でござつたろ。」
「お邪魔《じゃま》ですが此処《ここ》を借ります。」
桂木は足袋《たび》を脱ぎ、足の爪尖《つまさき》を取つて見たが、泥にも塗《まみ》れず、綺麗《きれい》だから、其のまゝ筵《むしろ》の上へ、ずいと腰を。
たとひ洗足《せんそく》を求めた処《ところ》で、媼《おうな》は水を汲《く》んで呉《く》れたか何《ど》うだか、根の生えた居ずまひで、例の仕事に余念のなさ、小笹《おざさ》を風が渡るかと……音につれて積る白糸《しらいと》。
三
桂木は濡《ぬ》れた上衣《うわぎ》を脱ぎ棄
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