《ひざまず》いて塵《ちり》を払ひくれる者もあつた。
銃をも、引上げて身に立てかけてよこしたのを、弱々《よわよわ》と取つて提《ひっさ》げて、胸を抱いて見返ると、縞《しま》の膝を此方《こなた》にずらして、紅《くれない》の衣《きぬ》の裏、ほのかに男を見送つて、分《わかれ》を惜《おし》むやうであつた。
桂木は倒れようとしたが、踵《くびす》をめぐらし、衝《つ》と背後向《うしろむき》になつた、霧の中から大きな顔を出したのは、逞《たくま》しい馬で。
これを片手で、かい退《の》けて、それから足を早めたが、霧が包んで、蹄《ひづめ》の音、とゞろ/\と、送るか、追ふか、彼《か》の停車場《ステエション》のあたりまで、四|間《けん》ばかり間《あわい》を置いてついて来た。
来た時のやうに立停《たちどま》つて又、噫《ああ》、妖魔にもせよ、と身を棄《す》てて一所《いっしょ》に殺されようかと思つた。途端に騎馬が引返《ひきかえ》した。其の間《あわい》遠ざかるほど、人数《にんず》を増《ま》して、次第に百騎、三百騎、果《はて》は空吹く風にも聞え、沖を大浪《おおなみ》の渡るにも紛《まご》うて、ど、ど、ど、ど、どツと野末
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