といふもの、恐らく案山子《かかし》を剥《は》いだ古蓑《ふるみの》の、徒《いたずら》に風に煽《あお》るに過ぎぬも知れないと思つたから、おもはゆげに頭《かしら》を掉《ふ》つた。
「殿、不実な男であります、婦人《おんな》は覚悟をしましたに、生命《いのち》を助かりたいとは、あきれ果てた未練者《みれんもの》、目の前でずた/\に婦人《おんな》を殺して見せつけてくれませう。」
「待て。」
「は。」
「客人が、世を果敢《はかな》んで居るうちは、我々の自由であるが、一度《ひとたび》心を入交《いれか》へて、恁《かか》る処《ところ》へ来るなどといふ、無分別《むふんべつ》さへ出さぬに於ては、神仏《しんぶつ》おはします、父君《ちちぎみ》、母君《ははぎみ》おはします洛陽《らくよう》の貴公子、むざとしては却《かえ》つて冥罰《みょうばつ》が恐《おそろ》しい。婦人《おんな》は斬《き》れ! 然《しか》し客人は丁寧にお帰し申せ。」
「は。」と再び答へると、何か知らず、桂木の両手を取つて、優しく扶《たす》け起したものがある、其が身に接した時、湿つた木《こ》の葉《は》の薫《かおり》がした。
腰のあたり、膝《ひざ》のあたり、跪
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