つるぎ》の峰からあはれなる顔を出して、うろ/\媼《おうな》を求めたが、其の言《ことば》に従はず、故《ことさ》らに死地《しち》に就《つ》いたを憎んだか、最《も》う影も形も見えず、推量と多く違《たが》はず、家も床《ゆか》も疾《とく》に消えて、唯《ただ》枯野《かれの》の霧の黄昏《たそがれ》に、露《つゆ》の命の男女《ふたり》也《なり》。目を瞑《ねむ》ると、声を掛け、
「しかし客人、死を惜《おし》む者は殺さぬが又|掟《おきて》だ、予《あらかじ》め聞かう、主《ぬし》ある者と恋を為遂《しと》げるため、死を覚悟か。」
稍《やや》激しく。
「婦人《おんな》は?」
「はい。」と呼吸《いき》の下で答へたが、頷《うなず》くやうにして頭《つむり》を垂れた。
「可《よ》し。」
改めて、
「御身《おんみ》は。」
諾《だく》と答へようとした、謂《い》ふまでもない、此《この》美人は譬《たと》ひ今は世に亡《な》き人にもせよ、正《まさ》に自分の恋人に似て居るから。
けれども、譬《たと》ひ今は世に亡き人にもせよ、正に自分の恋人であればだけれども、可怪《おかし》、枯野《かれの》の妖魔が振舞《ふるまい》、我とともに死なん
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