《のずえ》へ引いて、やがて山々へ、木精《こだま》に響いたと思ふと止《や》んだ。
最早、天地、処《ところ》を隔《へだ》つたやうだから、其のまゝ、銃孔《じゅうこう》を高くキラリと揺《ゆ》り上げた、星|一《ひと》ツ寒く輝く下に、路《みち》も迷はず、夜《よる》になり行く狭霧《さぎり》の中を、台場《だいば》に抜けると点燈頃《ひともしごろ》。
山家《やまが》の茶屋の店さきへ倒れたが、火の赫《かっ》と起つた、囲炉裡《いろり》に鉄網《てつあみ》をかけて、亭主、女房、小児《こども》まじりに、餅《もち》を焼いて居る、此の匂《におい》をかぐと、何《ど》ういふものか桂木は人間界へ蘇生《よみがえ》つたやうな心持《こころもち》がしたのである。
汽車がついたと見えて、此処《ここ》まで聞ゆるは、のんきな声、お弁当は宜《よろ》し、お鮨《すし》はいかゞ。……
底本:「日本幻想文学集成1 泉鏡花」国書刊行会
1991(平成3)年3月25日初版第1刷発行
1995(平成7)年10月9日初版第5刷発行
底本の親本:「泉鏡花全集」岩波書店
1940(昭和15)年発行
初出:「新小説」
1903
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