言つても、疑ふ処《ところ》もなし、又|然《そ》う信ずればとて驚くことはないのであつた。少年は姓|桂木氏《かつらぎし》、東京なる某《なにがし》学校の秀才で、今年夏のはじめから一種|憂鬱《ゆううつ》な病《やまい》にかゝり、日を経《ふ》るに従うて、色も、心も死灰《しかい》の如く、やがて石碑《いしぶみ》の下に形なき祭《まつり》を享《う》けるばかりになつたが、其の病の原因《もと》はと、渠《かれ》を能《よ》く知る友だちが密《ひそか》に言ふ、仔細あつて世を早《はよ》うした恋なりし人の、其の姉君《あねぎみ》なる貴夫人より、一挺《いっちょう》最新式の猟銃を賜《たま》はつた。が、爰《ここ》に差置《さしお》いた即是《すなわちこれ》。
武器を参らす、郊外に猟などして、自《みずか》ら励まし給《たま》へ、聞くが如き其の容体《ようだい》は、薬も看護《みとり》も効《かい》あらずと医師のいへば。但《ただし》御身《おんみ》に恙《つつが》なきやう、わらはが手はいつも銃の口に、と心を籠《こ》めた手紙を添へて、両三|日《にち》以前に御使者《ごししゃ》到来。
凭《よ》りかゝつた胸の離れなかつた、机の傍《そば》にこれを受取ると
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