度ばかり言《ことば》をかはしたと思ふと、早《は》や引上げられ、袖《そで》を背《そびら》へ、肩が尖《とが》つて、振《ふり》の半《なか》ばを前へ折つて伏せたと思ふと、膝《ひざ》のあたりから下へ曲げて掻《か》い込んだ、後《うしろ》に立つた一本《ひともと》の榛《はん》の樹《き》に、荊《いばら》の実の赤き上に、犇々《ひしひし》と縛《いまし》められたのである。
「さあ、言へ、言へ。」
「殿様の御意《ぎょい》だ、男を何処《どこ》へ秘《かく》した。」
「さあ、言つちまへ。」
縛《くく》されながら戦《わなな》くばかり。
「そこ退《の》け、踏んでくれう。」と苛《いら》てる音調、草が飛々《とびとび》大跨《おおまた》に寝《ね》つ起《お》きつしたと見ると、縞《しま》の下着は横ざまに寝た。
艶《えん》なる褄《つま》がばらりと乱れて、たふれて肩を動かしたが、
「あゝれ。」
「業畜《ごうちく》、心に従はぬは許して置く、鉄《くろがね》の室《むろ》に入れられながら、毛筋《けすじ》ほどの隙間《すきま》から、言語道断の不埒《ふらち》を働く、憎い女、さあ、男をいつて一所《いっしょ》に死ね……えゝ、言はぬか何《ど》うだ。」踏
前へ
次へ
全55ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング