ならば行つてござらつせえまし。お出かけなさる時に、歩行《ある》いたせゐか暑うてならぬ、これを脱いで行きますと、其処《そこ》で帯を解《と》かつしやつて、お脱ぎなされた。支度を直して、長襦袢《ながじゅばん》の上へ袷《あわせ》一《ひと》ツ、身軽になつて、すら/\草の中を行かつしやる、艶々《つやつや》としたおつむりが、薄《すすき》の中へ隠れたまで送つてなう。
それからは茅萱《ちがや》の音にも、最《も》うお帰《かえり》かと、待てど暮らせど、大方|例《いつも》のにへにならつしやつたのでござらうわいなう。私《わし》がやうな年寄《としより》にかけかまひはなけれどもの、何《なん》につけても思ひ詰めた、若い人たちの入つて来る処《ところ》ではないほどに、お前様も二度と来ようとは思はつしやるな。可《い》いかの、可《い》いかの。」と間《あい》を措《お》いて、緩《ゆる》く引張つてくゝめるが如くにいふ、媼《おうな》の言《ことば》が断々《たえだえ》に幽《かすか》に聞えて、其の声の遠くなるまで、桂木は留南木《とめぎ》の薫《かおり》に又|恍惚《うっとり》。
優しい暖かさが、身に染《し》みて、心から、草臥《くたび》れた
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