が、ぱつちりと涼《すずし》い目を開《あ》けた。
「其は恁《こ》うぢやよ、一月《ひとつき》の余《よ》も前ぢやわいの、何ともつひぞ見たことのない、都《みやこ》風俗《ふうぞく》の、少《わか》い美しい嬢様が、唯《たっ》た一人《ひとり》景色を見い/\、此の野へござつて私《わし》が処《とこ》へ休ましやつたが、此の奥にの、何《なに》とも名の知れぬ古い社《やしろ》がござるわいの、其処《そこ》へお参詣《まいり》に行くといはつしやる。
 はて此の野は其のお宮の主《ぬし》の持物で、何をさつしやるも其の御心《みこころ》ぢや、聞かつしやれ。
 どんな願事《ねがいごと》でもかなふけれど、其かはり生命《いのち》を犠《にえ》にせねばならぬ掟《おきて》ぢやわいなう、何と又《また》世の中に、生命《いのち》が要《い》らぬといふ願《ねがい》があろか、措《お》かつしやれ、お嬢様、御存じないか、というたれば。
 いえ/\大事ござんせぬ、其を承知で参りました、といはつしやるわいの。
 いや最《も》う、何《なに》も彼《か》も御存じで、婆《ばば》なぞが兎《と》や角《こ》ういふも恐多《おそれおお》いやうな御人品《ごじんぴん》ぢや、さやう
前へ 次へ
全55ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング