榛《はん》の樹立《こだち》の他《ほか》に、珍しい枯木《かれき》に見えよう。肉は干《ひから》び、皮|萎《しな》びて見るかげもないが、手、胸などの巌乗《がんじょう》さ、渋色《しぶいろ》に亀裂《ひび》が入つて下塗《したぬり》の漆《うるし》で固めたやう、未《ま》だ/\目立つのは鼻筋の判然《きっぱり》と通つて居る顔備《かおぞなえ》と。
 黒ずんだが鬱金《うこん》の裏の附いた、はぎ/\の、之《これ》はまた美しい、褪《あ》せては居るが色々、浅葱《あさぎ》の麻《あさ》の葉、鹿子《かのこ》の緋《ひ》、国の習《ならい》で百軒から切《きれ》一《ひと》ツづゝ集めて継《つ》ぎ合す処《ところ》がある、其のちやん/\を着て、前帯《まえおび》で坐つた形で。
 彼《か》の古戦場を過《よぎ》つて、矢叫《やさけび》の音を風に聞き、浅茅《あさじ》が原《はら》の月影に、古《いにしえ》の都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此の媼《おうな》が六十年の昔を推《すい》して、世にも希《まれ》なる、容色《みめ》よき上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》としても差支《さしつかえ》はないと思ふ、何となく犯《おか
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