廻り廻り蜒《うね》つて居るで、半里《はんり》の余《よ》もござりましよ。」と首を引込め、又|揺出《ゆりだ》すやうにして、旧|停車場《ステエション》の方《かた》を見ながら言つた、媼がしよぼ/\した目は、恁《こ》うやつて遠方のものに摺《こす》りつけるまでにしなければ、見えぬのであらう。
 それから顔を上げ下《おろ》しをする度《たび》に、恒《つね》は何処《どこ》にか蔵《かく》して置くらしい、がツくり窪《くぼ》んだ胸を、伸《のば》し且《か》つ竦《すく》めるのであつた。
 素直に伸びたのを其のまゝ撫《な》でつけた白髪《しらが》の其《それ》よりも、尚《なお》多いのは膚《はだ》の皺《しわ》で、就中《なかんずく》最も深く刻まれたのが、脊《せ》を低く、丁《ちょう》ど糸車を前に、枯野《かれの》の末に、埴生《はにゅう》の小屋など引《ひっ》くるめた置物同然に媼を畳《たた》み込んで置くのらしい。一度胸を伸《のば》して後《うしろ》へ反《そ》るやうにした今の様子で見れば、瘠《や》せさらぼうた脊丈《せたけ》、此の齢《よわい》にしては些《ち》と高過ぎる位なもの、すツくと立つたら、五六本|細《ほそ》いのがある背戸《せど》の
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