呪詛《まじない》のやうな言《ことば》も凄《すご》し、一足《ひとあし》棟《むね》を離れるが最後、岸破《がば》と野が落ちて地《じ》の底へ沈まうも知れずと、爪立足《つまだてあし》で、びく/\しながら、それから一生懸命に、野路《のみち》にかゝつて遁《に》げ出した、伊豆の伊東へ出る間道《かんどう》で、此処《ここ》を放れたまで何の障《さわ》りもなかつたさうで。
たゞ、些《ち》と時節が早かつたと見えて、三島の山々から一《ひと》なだれの茅萱《ちがや》が丈《たけ》より高い中から、ごそごそと彼処此処《あっちこっち》、野馬《のうま》が顔を出して人珍しげに瞶《みつ》めては、何処《どこ》へか隠れて了《しま》ふのと、蒼空《あおぞら》だつたが、ちぎれ/\に雲の脚《あし》の疾《はや》いのが、何《ど》んな変事でも起らうかと思はれて、活《い》きた心地はなかつたと言ふ話ぢやないか。
それだもの、お媼《ばあ》さん。」
六
「もし、そんなことが、真個《ほんとう》にある処《ところ》なら、生命《いのち》がけだつてねえ、一度来て見ずには居られないとは思ひませんか。
何しに来たつて、お前さんが咎《とが》めるや
前へ
次へ
全55ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング