うに聞くから言ふんだが、何も其の何《ど》うしよう、恁《こ》うしようといふ悪気《わるぎ》はない。
 好事《ものずき》さ、好事《ものずき》で、変つた話でもあつたら聞かう、不思議なことでもあるなら見ようと思ふばかり、しかしね、其を見聞《みき》くにつけては、どんな又|対手《あいて》に不心得があつて、危険《けんのん》でないとも限らぬから、其処《そこ》で恁《こ》う、用心の銃をかついで、食べる物も用意した。
 台場《だいば》の停車場《ステエション》から半道《はんみち》ばかり、今朝《けさ》此《この》原へかゝつた時は、脚絆《きゃはん》の紐《ひも》も緊乎《しっかり》と、草鞋《わらじ》もさツ/\と新しい踏心地《ふみごこち》、一面に霧のかゝつたのも、味方の狼煙《のろし》のやうに勇《いさま》しく踏込《ふみこ》むと、さあ、一《ひと》ツ一《ひと》ツ、萱《かや》にも尾花にも心を置いて、葉末《はずえ》に目をつけ、根を窺《うかが》ひ、まるで、美しい蕈《きのこ》でも捜す形。
 葉ずれの音がざわ/\と、風が吹く度《たび》に、遠くの方で、
(主《ぬし》あるものですが、)とでも囁《ささや》いて居るやうで、頼母《たのも》しいにつけ
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