《ひとり》。」
折から炉の底にしよんぼりとする、掬《すく》ふやうにして手づから燻《いぶ》した落葉の中に二枚《ふたひら》ばかり荊《いばら》の葉の太《いた》く湿つたのがいぶり出した、胸のあたりへ煙が弱く、いつも勢《いきおい》よくは焚《た》かぬさうで冷《つめた》い灰を、舐《な》めるやうにして、一《ひと》ツ蜒《うね》つて這《は》ひ上《あが》るのを、肩で乱して払ひながら、
「煙《けむ》い。其までは宛然《まるで》恁《こ》う、身体《からだ》へ絡《まつわ》つて、肩を包むやうにして、侍女《こしもと》の手だの、袖だの、裾《すそ》だの、屏風《びょうぶ》だの、襖《ふすま》だの、蒲団《ふとん》だの、膳《ぜん》だの、枕だのが、あの、所狭《ところせま》きまでといふ風であつたのが、不残《のこらず》ずツと引込んで、座敷の隅々《すみずみ》へ片着《かたづ》いて、右も左も見通しに、開放《あけはな》しの野原も急に広くなつたやうに思はれたと言ひます。
然《そ》うすると、急に秋風が身に染《し》みて、其の男はぶる/\と震へ出したさうだがね、寂閑《しんかん》として人《ひと》ツ児《こ》一人《ひとり》居さうにもない。
夢か現《うつつ
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