《ところ》へ、お前様は何をしに来さつしやつた。」
じろりと流盻《しりめ》に見ていつた。
桂木はぎよつとしたが、
「理窟《りくつ》を聞くんぢやありません、私はね、実はお前さんのやうな人に逢《あ》つて、何か変つた話をして貰《もら》はう、見られるものなら見ようと思つて、遙々《はるばる》出向いて来たんだもの。人間の他《ほか》に歩行《ある》くものがあるといふから、扨《さて》こそと乗つかゝりや、霧や雲の動くことになつて了《しま》ふし、活《い》かしちや返さぬやうな者が住んででも居るやうに聞いたから、其を尋ねりや、怪我《けが》過失《あやまち》は所を定めないといふし、それぢや些《ちっ》とも張合《はりあい》がありやしない、何か珍しいことを話してくれませんか、私はね。」
膝《ひざ》を進めて、瞳《ひとみ》を据《す》ゑ、
「私はね、お媼《ばあ》さん、風説《うわさ》を知りつゝ恁《こ》うやつて一人で来た位だから、打明けて云ひます、見受けた処《ところ》、君は何だ、様子が宛然《まるで》野の主《ぬし》とでもいふべきぢやないか、何の馬鹿々々《ばかばか》しいと思ふだらうが、好事《ものずき》です、何《ど》うぞ一番《ひとつ
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