ひら》いてじつと、此の媼の目は、怪しく光つた如くに思はれたから、桂木は箸《はし》を置き、心で身構《みがまえ》をして、
「これかね。」と言ふをきツかけに、ずらして取つて引寄せた、空の模様、小雨《こさめ》の色、孤家《ひとつや》の裡《うち》も、媼の姿も、さては炉の中の火さへ淡く、凡《すべ》て枯野《かれの》に描かれた、幻の如き間《あいだ》に、ポネヒル連発銃の銃身のみ、青く閃《きらめ》くまで磨ける鏡かと壁を射《い》て、弾込《たまごめ》したのがづツしり手応《てごたえ》。
 我ながら頼母《たのも》しく、
「何、まあね、何《ど》うぞこれを打つことのないやうにと、内々《ないない》祈つて居るんだよ。」
「其はまた何といふわけでござらうの。」と澄《すま》して、例の糸を繰《く》る、五体は悉皆《しっかい》、車の仕かけで、人形の動くやう、媼は少頃《しばらく》も手を休めず。
 驚破《すわ》といふ時、綿《わた》の条《すじ》を射切《いき》つたら、胸に不及《およばず》、咽喉《のんど》に不及《およばず》、玉《たま》の緒《お》は絶《た》えて媼は唯《ただ》一個《いっこ》、朽木《くちき》の像にならうも知れぬ。
 と桂木は心の裡《
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