はの、一層《いっそ》のこと霧の毒を消すものぢやといふげにござる。」
「然《そ》う、」とばかり見詰《みつ》めて居た。
此時《このとき》気《け》だるさうにはじめて振向《ふりむ》き、
「あのまた霧の毒といふものは恐《おそろ》しいものでなう、お前様、今日は彼《あれ》が雨になつたればこそ可《よ》うござつた、ものの半日も冥土《よみじ》のやうな煙の中に包まれて居て見やしやれ、生命《いのち》を取られいでから三月《みつき》四月《よつき》煩《わずら》うげな、此処《ここ》の霧は又|格別《かくべつ》ぢやと言ふわいなう。」
「あの、霧が、」
「お客様、お前さま、はじめて此処《ここ》を歩行《ある》かつしやるや?」
桂木は大胆に、一口食べかけたのをぐツと呑込《のみこ》み、
「はじめてだとも。聞いちや居たんだけれど。」
「然《そ》うぢやろ、然うぢやろ。」と媼《おうな》はまた頷《うなず》いたが、単《ただ》然《そ》うであらうではなく、正《まさ》に然《そ》うなくてはかなはぬと言つたやうな語気であつた。
「而《そ》して何かの、お前様|其《そ》の鉄砲を打つて歩行《ある》かしやるでござるかの。」と糸を繰《く》る手を両方に開《
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