早や柵の上を蹌踉《よろ》めき越えて、虚空を掴《つか》んで探したのが、立直って、衝《つ》と寄った。
 が、床几の前に、ぱったり倒れて、起直りざまの目の色は、口よりも血走った。
「ああ、待遠《まちどお》な、多一さん、」
 と黒髪|揺《ゆら》ぐ、吐息《といき》と共に、男の肩に手を掛けた。
「毒には加減をしたけれど、私が先へ死にそうでな、幾たび目をば瞑《ねむ》ったやろ。やっとここまで堪《こら》えたえ。も一度顔を、と思うよって……」
 丸官の握拳《にぎりこぶし》が、時に、瓦《かわら》の欠片《かけら》のごとく、群集を打ちのめして掻分《かきわ》ける。
「傘でかくしておくれやす。や、」と云う。
 台傘が颯《さっ》と斜めになった。が、丸官の忿怒《ふんぬ》は遮り果てない。
 靴足袋で青い足が、柵を踏んで乗ろうとするのを、一目見ると、懐中《ふところ》へ衝《つ》と手を入れて、両方へ振って、扱《しご》いて、投げた。既に袋を出ていた蛇は、二筋|電《いなずま》のごとく光って飛んだ。
 わ、と立騒ぐ群集《ぐんじゅ》の中へ、丸官の影は揉込《もみこ》まれた。一人|渠《かれ》のみならず、もの見高く、推掛《おしかか》っ
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