しずしず》と揃って練る時から、お珊の袴の影で留ったのを人を知った。
 ここに休んでから、それとなく、五人目の姫の顔を差覗《さしのぞ》くものもあった。けれども端然としていた。黛《まゆずみ》の他に玲瓏《れいろう》として顔に一点の雲もなかった。が、右手《めて》に捧げた橘《たちばな》に見入るのであろう、寂《さみ》しく目を閉じていたと云う。
 時に、途中ではさもなかった。ここに休む内に、怪しき気のこと、点滴《したた》る血の事、就中《なかんずく》、姫の数の幻に一人多い事が、いつとなく、伝えられて、烈《はげ》しく女どもの気を打った。
 自然と、髪を垂れ、袖を合せて、床几なる姫は皆、斉《ひと》しくお珊が臨終の姿と同じ、肩のさみしい風情となった。
 血だらけだ、血だらけだ、血だらけの稚児だ――と叫ぶ――柵の外の群集《ぐんじゅ》の波を、鯱《しゃち》に追われて泳ぐがごとく、多一の顔が真蒼《まっさお》に顕《あらわ》れた。
「お呼びや、私をお知らせや。」
 とお珊が云った。
 伝五|爺《じじい》は、懐を大きく、仰天した皺嗄声《しわがれごえ》を振絞って、
「多一か、多一はん――御寮人様はここじゃ。」と喚《わめ》く
前へ 次へ
全104ページ中98ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング