南地心中
泉鏡花
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)初阪《はつざか》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)茶|献上博多《けんじょうはかた》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「火+發」、450−1]《ぱっ》と
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一
「今のは、」
初阪《はつざか》ものの赤毛布《あかげっと》、という処《ところ》を、十月の半ば過ぎ、小春凪《こはるなぎ》で、ちと逆上《のぼ》せるほどな暖かさに、下着さえ襲《かさ》ねて重し、野暮な縞《しま》も隠されず、頬被《ほおかぶ》りがわりの鳥打帽で、朝から見物に出掛けた……この初阪とは、伝え聞く、富士、浅間、大山、筑波《つくば》、はじめて、出立《いでた》つを初山と称《とな》うるに傚《なら》って、大阪の地へ初見参《ういけんざん》という意味である。
その男が、天満橋《てんまばし》を北へ渡越した処で、同伴《つれ》のものに聞いた。
「今のは?」
「大阪城でございますさ。」
と片頬《かたほ》笑みでわざと
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