云う。結城《ゆうき》の藍微塵《あいみじん》の一枚着、唐桟柄《とうざんがら》の袷羽織《あわせばおり》、茶|献上博多《けんじょうはかた》の帯をぐいと緊《し》め、白柔皮《しろなめし》の緒の雪駄穿《せったばき》で、髪をすっきりと刈った、気の利いた若いもの、風俗は一目で知れる……俳優《やくしゃ》部屋の男衆《おとこしゅ》で、初阪ものには不似合な伝法。
「まさか、天満の橋の上から、淀川《よどがわ》を控えて、城を見て――当人寝が足りない処へ、こう照《てり》つけられて、道頓堀《どうとんぼり》から千日前、この辺の沸《にえ》くり返る町の中を見物だから、茫《ぼう》となって、夢を見たようだけれど、それだって、大阪に居る事は確《たしか》に承知の上です――言わなくっても大阪城だけは分ろうじゃないか。」
「御道理《ごもっとも》で、ふふふ、」
男衆はまた笑いながら、
「ですがね、欄干へ立って、淀川堤を御覧なさると、貴方《あなた》、恍惚《うっとり》とおなんなさいましたぜ。熟《じっ》と考え込んでおしまいなすって、何かお話しするのもお気の毒なような御様子ですから、私も黙《だんま》りでね。ええ、……時間の都合で、そちらへは廻
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