らないまでも、網島の見当は御案内をしろって、親方に吩咐《いいつ》かって参ったんで、あすこで一ツ、桜宮から網島を口上で申し上げようと思っていたのに、あんまり腕組をなすったんで、いや、案内者、大きに水を見て涼みました。
それから、ずっと黙りで、橋を渡った処で、(今のは、)とお尋ねなさるんでさ、義理にも大阪城、と申さないじゃ、第一日本一の名城に対して、ははは、」とものありげにちょっと顔を見る。
初阪は鳥打の庇《ひさし》に手を当て、
「分りましたよ。真田幸村《さなだゆきむら》に対しても、決して粗略には存じません。萌黄色《もえぎいろ》の海のような、音に聞いた淀川が、大阪を真二《まっぷた》つに分けたように悠揚《ゆっくり》流れる。
電車の塵《ちり》も冬空です……澄透《すみとお》った空に晃々《きらきら》と太陽《ひ》が照って、五月頃の潮《うしお》が押寄せるかと思う人通りの激しい中を、薄い霧一筋、岸から離れて、さながら、東海道で富士を視《なが》めるように、あの、城が見えたっけ。
川蒸汽の、ばらばらと川浪を蹴《け》るのなんぞは、高櫓《たかやぐら》の瓦《かわら》一枚浮かしたほどにも思われず、……船に掛
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