た両側の千人は、一斉に動揺《どよみ》を立て、悲鳴を揚げて、泣く、叫ぶ。茶屋|揚屋《あげや》の軒に余って、土足の泥波を店へ哄《どっ》と……津波の余残《なごり》は太左衛門橋、戒橋《えびすばし》、相生橋《あいおいばし》に溢《あふ》れかかり、畳屋町、笠屋町、玉屋町を横筋に渦巻き落ちる。
 見よ、見よ、鴉が蔽《おお》いかかって、人の目、頭《かしら》に、嘴《はし》を鳴らすを。
 お珊に詰寄る世話人は、また不思議にも、蛇が、蛇が、と遁惑《にげまど》うた。その数はただ二条《ふたすじ》ではない。
 屋台から舞妓が一人|倒《さかさま》に落ちた。そこに、めらめらと鎌首を立て、這いかかったためである。
 それ、怪我人よ、人死《ひとじに》よ、とそこもここも湧揚る。
 お珊は、心|静《しずか》に多一を抱いた。
「よう、顔見せておくれやす。」
「口惜《くちおし》い。御寮人、」と、血を吐きながら頭《かぶり》を振る。
「貴方《あんた》ばかり殺しはせん。これお見やす、」と忘れたように、血が涸《か》れて、蒼白《あおじろ》んで、早や動かし得ぬ指を離すと、刻んだように。しっかと持った、その脈を刺した手の橘の、鮮血《からくれない
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