ももひき》、腹掛けの若いものが、さし心得て、露じとりの地に据えた床几に、お珊は真先《まっさき》に腰を掛けた。が、これは我儘《わがまま》ではない。練《ねり》ものは、揃って、宗右衛門町のここに休むのが習《ならい》であった。
屋台の前なる稚児《ちご》をはじめ、間をものの二|間《けん》ばかりずつ、真直《まっすぐ》に取って、十二人が十二の衣《きぬ》、色を勝《すぐ》った南地の芸妓《げいこ》が、揃って、一人ずつ皆床几に掛かる。
台傘の朱は、総二階一面軒ごとの緋《ひ》の毛氈《もうせん》に、色|映交《さしか》わして、千本《ちもと》植えたる桜の梢《こずえ》、廊《くるわ》の空に咲かかる。白の狩衣、紅梅小袖、灯《ともしび》の影にちらちらと、囃子の舞妓、芸妓など、霧に揺据《ゆりすわ》って、小鼓、八雲琴《やくもごと》の調《しらべ》を休むと、後囃子《あとばやし》なる素袍の稚児が、浅葱桜《あさぎざくら》を織交ぜて、すり鉦《がね》、太鼓の音《ね》も憩う。動揺《どよめき》渡る見物は、大河の水を堰《せ》いたよう、見渡す限り列のある間、――一尺ごとに百目蝋燭《ひゃくめろうそく》、裸火を煽《あお》らし立てた、黒塗に台附の柵
前へ
次へ
全104ページ中94ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング