うと、唇をゆがめた皓歯《しらは》に、莟《つぼみ》のような血を噛《か》んだが、烏帽子の紐の乱れかかって、胸に千条《ちすじ》の鮮血《からくれない》。
「あ、」
 と一声して、ばったり倒れる。人目も振《ふり》も、しどろになって背《せな》に縋《すが》った。多一の片手の掌《てのひら》も、我が唇を圧《おさえ》余って、血汐《ちしお》は指を溢《あふ》れ落ちた。
 一座わっと立騒ぐ。階子《はしご》へ遁《に》げて落ちたのさえある。
 引仰向《ひきあおむ》けてしっかと抱き、
「美津《みい》さん!……二、二人は毒害された、お珊、お珊、御寮人、お珊め、婦《おんな》!」

       二十八

「床几《しょうぎ》、」
 と、前後《まえうしろ》の屋台の間に、市女《いちめ》の姫の第五人目で、お珊が朗かな声を掛けた。背後《うしろ》に二人、朱の台傘を廂《ひさし》より高々と地摺《じずれ》の黒髪にさしかけたのは、白丁扮装《はくちょうでたち》の駕寵《かご》人足。並んで、萌黄紗《もえぎしゃ》に朱の総《ふさ》結んだ、市女笠を捧げて従ったのは、特にお珊が望んだという、お美津の爺《じい》の伝五郎。
 印半纏《しるしばんてん》、股引《
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