前《さき》へ、……お珊はそれが縁を結ぶ禁厭《まじない》であるようにした。
「密々《ひそひそ》、話していやはったな。……そこへ、私が行合《ゆきあ》[#ルビの「ゆきあ」は底本では「ゆきわ」]わせたも、この杯の瑞祥《ずいしょう》だすぜ。
ここで夫婦にならはったら、直ぐにな、別に店を出してもらうなり、世帯《しょたい》持ってそこから本店《ほんだな》へ通うなり、あの、お爺はんと、三人、あんじょ暮らして行《ゆ》かはるように、私がちゃと引受けた。弟、妹の分にして、丸官はんに否《いや》は言わせぬ。よって、安心おしやすや。え、嬉しいやろ。美津《みい》さんが、あの、嬉しそうなえ。
どうや、九太夫《くだゆう》はん。」
と云った、お珊は、密《そっ》と声を立てて、打解けた笑顔になった。
多一は素袍の浅葱《あさぎ》を濃く、袖を緊《し》めて、またその顔を、はッと伏せる。
「ほほほほ多一さん、貴下《あんた》、そうむつかしゅうせずと、胡坐《じょうら》組む気で、杯しなはれ。私かて、丸官はんの傍《そば》に居るのやない、この一月は籍のある、富田屋《とんだや》の以前の芸妓《げいこ》、そのつもりで酌をするのえ。
仮祝言や
前へ
次へ
全104ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング