空地は、こうした水ある処に、思いかけぬ寂しさを、日中《ひなか》は分けて見る事がおりおりある。
ちょうど池の辺《ほとり》には、この時、他に人影も見えなかった。……
橋の上に小児《こども》を連れた乳母が居たが、此方《こなた》から連立って、二人が行掛《ゆきかか》った機会《しお》に、
「さあ、のの様の方へ行こか。」と云って、手を引いて、宮の方《かた》へ徐々《そろそろ》帰った。その状《さま》が、人間界へ立帰るごとくに見えた。
池は小さくて、武蔵野の埴生《はにゅう》の小屋が今あらば、その潦《にわたずみ》ばかりだけれども、深翠《ふかみどり》に萌黄《もえぎ》を累《かさ》ねた、水の古さに藻が暗く、取廻わした石垣も、草は枯れつつ苔《こけ》滑《なめらか》。牡丹《ぼたん》を彫らぬ欄干も、巌《いわお》を削った趣《おもむき》がある。あまつさえ、水底《みなぞこ》に主《ぬし》が棲《す》む……その逸するのを封ずるために、雲に結《ゆわ》えて鉄《くろがね》の網を張り詰めたように、百千の細《こまか》な影が、漣《ささなみ》立《た》って、ふらふらと数知れず、薄黒く池の中に浮いたのは、亀の池の名に負える、水に充満《みちみち》
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