ると、
(多一、多一、)と呼んだ。若い人は、多一と云うんだ。
(待てい、)と云う。はっと引返して、また手を支《つ》くと、婦《おんな》の膝をはらばいに乗出して、(何じゃな、向うから金子《かね》くれい、と使が来て店で待つじゃな。人|寄越《よこ》いたら催促やい。誰や思う、丸官、)と云ったように覚えている。……」
「ええ、丸田官蔵、船場の大金持です。」
「そうかね、(丸官は催促されて金子《かね》出いた覚えはない。へへん、)と云って、取巻の芸妓徒《げいこてあい》の顔をずらりと見渡すと、例の凄《すご》いので嘲笑《あざわら》って、軍鶏《しゃも》が蹴《け》つけるように、ポンと起きたが、(寄越せ、)で、一人|剥《む》いていた柿を引手繰《ひったく》る、と仕切に肱《ひじ》を立てて、頤《あご》を、新高《しんたか》に居るどこかの島田|髷《まげ》の上に突出して、丸噛《まるかじ》りに、ぼりぼりと喰《くい》かきながら、(留《や》めちまえ、)と舞台へ喚《わめ》く。
 御寮人は、ぞろりと褄《つま》を引合せる。多一は、その袖の蔭に、踞《うずくま》っていたんだね。
 するとね、くいほじった柿の核《たね》を、ぴょいぴょいと桟敷
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